研究紹介

奈良県立医科大学免疫学講座では、 疾患の予防・治療につながる重要な標的分子の提供、それに基づく新規予防法・検査法・治療法開発といったトランスレーションリサーチへの展開を目指しています。

1. エピジェネティクスによる免疫機構の解明

炎症は、我々の周りに無数いる病原微生物や刺激に対する免疫応答です。この炎症反応は我々が生きていく上で、感染症などに対しては必須の生体防御反応ですが、適切に行われないと炎症反応は難治性の慢性炎症疾患、自己免疫疾患、動脈硬化、糖尿病、発がんなどをもたらします。近年、疾患の解明やトランスレーションリサーチへの展開が大いに期待されている分野の1つにエピジェネティクスがあり、エピジェネティクスによる遺伝子発現制御機構は、様々な難治性疾患に深く関わっています。炎症反応の制御にはエピジェネティクスが深く結びついており、疾患の解明やトランスレーションリサーチへの展開が大いに期待されます。我々は現在、インフルエンザウイルス感染症や急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を中心にエピジェネティクス解析による病態解明を進めています(Sci Rep 9;284,2019他)。

2. 臓器線維化の分子基盤解明

線維化は炎症・創傷治癒過程のプロセスの1つですが、慢性炎症が持続すると過剰な線維化を起こし、臓器本来の機能を障害します。特に肺線維症は成因が不明な特発性肺線維症 (Idiopathic Pulmonary Fibrosis;;以下IPF) が大部分を占め、5年生存率は約30%とされています。これは多くのがんと比較しても予後は非常に悪く、IPFに対する新規治療薬であるピルフェニドンとニンテダニブでも、病状の進行を抑制する効果が認められたものの治療成績は十分とはいえず、IPFに対する病態解明と有効な新規治療薬の開発が急務となっています。我々は現在、当大学医の倫理審査委員会の承認を受け、IPF患者さま由来の肺線維芽細胞を用いて、in vitroならびにin vivo(新規マウスモデル)での新たな実験系・評価系を確立し、遺伝子・病態解析等からIPFの成因・分子基盤を明らかにする基礎研究を行っています。さらに新規治療薬の探索や患者さま個々に最適な治療薬を提供するオーダーメイド治療の臨床応用への発展を目指しています。その1つの例として肺線維症モデルにおいて間葉系幹細胞輸注療法の有効性を明らかにしております(2019年日本呼吸器学会学術講演会演題賞優秀賞)。

3. 腸内細菌を介した難治性免疫疾患の病態解明

腸管は免疫細胞の約70%が存在すると言われているヒト最大の免疫組織です。その腸管には1×1014個にも及ぶ腸内細菌が存在し、腸管免疫に大きな影響を与えています。特に近年の次世代シークエンサー等の技術進歩により、詳細な腸内細菌解析が可能になることで、腸内細菌の構成異常が免疫異常に繋がり、様々な疾患に関与することかが分かってきました。我々の研究室では、気管支喘息や炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)モデルにおける腸内における細菌や免疫学的解析から、これらの疾患に対する新規治療標的の探索や予防法の開発を目指しています(PLoS One 15; e0238923 ,2020他)。

4. 非古典的HLAクラスI分子の機能解析

非古典的HLAクラスI分子のHLA-E,-F,-Gは限られた細胞に発現し、多型性に乏しいため非自己としてT細胞に認識されず、またNK細胞活性を制御すると考えられています。そのため、妊娠・移植・癌分野において、これら分子の発現が予後等に関与すると言われていますが、いまだ明らかになっていません。このHLA分子の生体内における発現意義と機能の全容解明を行い、治療・診断への臨床応用を目指しています。特にがん領域においては、我々は一部のがんにおいて非古典的HLAクラスI分子を強く発現することを見出し、近年話題のがん免疫療法への可能性を検索しております。さらに、これら分子の生体内における検出法の開発を行っています。

5.新型コロナウイルス感染症克服に向けた新規予防法・治療法の開発

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は世界的な脅威となり、現在COVID-19を克服するための医学研究が世界中から強く求められています。この危機を克服するためにはCOVID-19に対する早急かつ実装可能な予防法・治療法開発が急務であり、これこそが医科大学の宿命と考えており、奈良県立医科大学では一般社団法人MBTコンソーシアムとともに新型コロナウイルスに対する研究を推進しております。その中で、早急かつ実装可能な予防法として、奈良県の名産でもある柿から抽出される高濃度柿タンニン(柿渋)が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対して不活化効果を有することを公表しました。
(https://www.naramed-u.ac.jp/university/kenkyu-sangakukan/oshirase/r2nendo/kakishibu.html
柿渋を用いた製品化を早急に進めるとともに、柿渋のみならずSARS-CoV-2に対する新規予防法・治療法の開発に向けたin vitro・in vivoでの基礎研究ならびに臨床研究を進めております。(Sci Rep 11: 23695, 2021他)。

学外共同研究施設
  • 東京理科大学生命医科学研究所
  • 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
  • 奈良先端科学技術大学院大学
  • 理化学研究所
  • 医療法人赤崎クリニック
  • 医療法人社団こうのとり会ファティリティクリニック東京
  • 医療法人白鳳会林産婦人科
  • 医療法人平治会ASKAレディースクリニック
  • 山下レディースクリニック